あの日への道のり

過去へ進んでいるのか、未来へ戻っているのか

あの日

6月。
夏本番を前に、早くも暑さが肌を濡らす
空を見上げると、疎らな雲が静かに形を変えている


『あの雲みたいに、僕も変われるかな』
そう呟いた声は、誰に届くこともなく空に消えていく

そして、いつもの狭い階段を下って職場に向かう

 

 

ただ繰り返される毎日

何も変わらない毎日

この日常に終わりは来るのだろうか

 

『そんなにつまらないなら辞めればいいんじゃないですか?』

君ならそう言ったかもしれない

でも、辞めて楽に生きれるほど容易い世の中ではない

そもそも、僕はまだ辞めたいなんて一言も言っていないではないか

辞めたら君が養ってくれるの?

言おうとして、言葉を飲み込んだ

もっとも、口にしてもこの言葉はもう届かない

 

 

君と最後に会ったのはいつだっただろう

思い出せる気がしなくなって考えるのを辞めた

 

あの頃は楽しかった

ただ繰り返される毎日が、楽しかった

また会おう、と言った約束は

次に会えるまで信じていた

 

届かないと分かっていても、君に伝えたいことがある

ただのひとり言だと分かっていても

 

君に会えなくなって、悲しんでいる人がたくさんいる

何時間も涙を流した人がいる

 

自分は大事な人を亡くした経験がある

もう会えないと嫌でも思い知らされる

 

同じだ

 

もう会えないのなら、いなくなってしまったのと同じだ

悲しいし、寂しいし、何より信じることができない

 

あんなに仲良くしてくれたのは

慕ってくれていたのは

何だったのか、偽りだったのか

 

そうじゃない事なんて分かっている

 

分かっていても、そうじゃない事がむしろ自分の心を締め付ける

 

人生の中でたった1人

 

長い目で見たら取るに足らない事かもしれない

 

それでも、そんな簡単に諦められる人ではなかった

 

色んな思い出があった

 

2人で出かけたりもした

 

辛い事があった時は手を差し伸べてくれた

 

心の底から、いい人だと思った

 

そしてこの感情は間違いではないのだと思う

本当に、心の底からいい人なんだと思う

 

いい人生を歩んで欲しい

 

この言葉しか出てこない

 

君のことを今も考え、悩む人はたくさんいるはずだ

少なくともここに1人いる

 

いま君がどんな状況で、どんな心境でどういう風に毎日を過ごしているのか

 

何も分からないし知る術もない

 

そんな何も知らない人間が言える事など無いのかもしれないけど、君が知る以上に、君は多くの人に愛されているんだよ

 

この言葉は届かないけれど、

もう会う事は無いのかもしれないけど、

 

また会おう、と言った約束は

いまも信じているから

 

 

 

 

 

時代が巡り来る日本の、とある少女の話

 

君は今も、どこかで暮らしている

 

同じ時間を刻んでいる

 

空を見上げると、そこにあった雲はどこかに消えていた

照りつける太陽は容赦なく大地を焼き、僕らに夏の訪れを感じさせるかのようだった

 

 

あの雲みたいに、僕も変われるかな

 

 

変わる必要があるのかは分からない

分からないけど、今のままではいけない気がした

 

吹き抜ける風を感じながら、僕は今日も階段を下る

 

 

繰り返される今日が、始まる